ポンペイ・レッド

少し前に『ポンペイの壁画展』に行った。


ヴェスヴィオ火山の噴火によって、

瞬時にして灰と化した2000年前の南イタリアの街、ポンペイ。


すでに、政治も産業も固有の文化も栄えており

素晴らしい芸術品も生まれていたらしいことが、

その発掘された壁画から見て取れる。

皮肉にも、火山灰が守ったその壁画たちは色鮮やかで、

時を超えて、人々の存在を伝えてきた。


数回の火砕流が、数千人の人民の命を奪った。

その人々の、生々しいまでの生きていた証が、

壁画に宿っているように感じた。


経年や熱による変色もあるので、すべてではないが、

壁画に使われている赤という色は、ポンペイ・レッドと呼ばれる。


とても美しい緋色。

眺めていると、こみ上がってくるものがある。

自分の魂との繋がりを感じる場所、国、時代というものがある。

そのひとつが、私の場合は、現在のイタリアにあたる地域なのだ。

ポンペイ・レッドは、それを呼び起こす色だった。


当時、壁画を書くために多種多様な道具が使われていた。

そんな遠い昔に、こんなよくできた道具があるなんて。

ロック付きのコンパスや、平行線を書くための水平器のようなものや……

人の知恵の歴史に心震える。

娼婦の館があり、ぶどう酒の醸造を行ない、

現代の都市と比べても遜色ない、整備された海洋都市だったポンペイ。

それでも、人々は純粋に神話の世界を信じ、

街の守り神としての愛と美の女神ヴィーナス(ウェヌス)や

ディオニュソスやたくさんの神々の物語を壁画やタブロー画に残した。

今再び、日の目を見ることになった美しいそれらから、

ある日突然、命の灯火を消すことになったがゆえに熱く切ないまでの、

人々の呼吸や命が感じられるように思う。

6月半ばまで、福岡市博物館で開催されています。

興味を持たれた方、どうぞお運びください。